「おじゃましまーすっ」
 瑞佳はそう言うと靴を行儀良く脱ぎ、家の中に入って行った。そんな彼女に、先に家へ入った浩平が声を掛ける。
「今コーヒーを入れるから、居間ででもゆっくりしててくれ」
「あっ、いいよ。わたしがやるから」
 瑞佳は長年浩平の保護者(?)として世話を焼いてきた実績がある。そのため、浩平の家の台所も彼女にとっては勝手知ったる場所である。何がどこにあるかはすっかり熟知していた。
「ばか、客にそんなことさせられるか」
「えっ、でも……」
「いいから、ゆっくりしてろよ、なっ?」
「うん……わかったよっ。ありがとう」

 やがてコーヒーを入れ終えた浩平が、それを盆の上にのせて、瑞佳の元にやって来る。
 湯気とふくよかな香りを立てるカップをテーブルの上に移して浩平が言った。
「お待たせ、瑞佳」
「あっ、ありがとう、浩平」
 浩平もテーブルを挟んで瑞佳の向かい側に座った。そしてふたりは無言でコーヒーを口にする。
 一口だけ飲み終えた瑞佳が、カップをテーブルに戻して言った。
「次は、浩平の番だよ」
 学校とそこからの帰り道で、瑞佳は浩平のいない間に起きためぼしい出来事の大部分を話し終えていた。だが彼女は、浩平がなぜ消えたのか、今までどうしていたのか、それらをどうしても知りたかったのだった。
「……ああ」
 浩平も瑞佳の心情を感じ取り、瑞佳を真っ直ぐに見つめた。その眼差しはどこまでも真剣だった。普段くだらない悪ふざけや悪戯に興じている時とは根本的に異なっていた。
「話せば長くなるんだが……」