「雨でしたから、視界も悪かったと思うんです」

 突然舞が佐祐理を突き飛ばした。お気に入りの傘を落としてしまったが、
なんとかバランスを立て直して転ぶのを免れる。
 キキーッ!
雨に濡れた、嫌なブレーキの音がした――

「それで、舞は?」
佐祐理が再び泣き崩れてしまう気がして、祐一は素早く訊いた。
「――救急車で病院に……」
「そうか……」
祐一は動揺を抑えて静かに言った。
ここで取り乱したらダメだ。あいつは絶対大丈夫だ。
自分に言い聞かせ、込み上げるものをどうにか制圧する。しばらく無言でいると、
佐祐理は口をつけていない紅茶のカップを震わせて呟いた。
「今日行かなければ……佐祐理が気付いていれば………」
「佐祐理さん?」
「一弥のときのように、ま、また佐祐理のせいで失ってしまうのでしょうか……」
びくびくと震え、彼女はシャツの上から左手首に爪を立てた。
服の上からでも深々と爪が食い込む。
祐一はその意味がすぐに理解できた。