「笑わないでよ? 私、小さいとき、好きなときに好きなだけ
 虹がつくれたらいいなぁって、本気で思っていたの」

彼女は、夜景を映す窓ガラスを背にして立っていた。
恋人に語るようにはにかみながら、冗談にもならない台詞。

「それでね、夢を叶えようと思ったの。でも、ただの虹じゃつまらないから、
 オーロラでも作っちゃおうかなって。ちょっとオゾン層をブチ抜いて
 たっぷり宇宙線が降りそそぐようにして……」

酔ったように、歌うように、彼女はするすると言葉を紡いでいく。
何より重大なはずの事実が、子供の夢のようにあっけなく通り過ぎていく。

「あれ、綺麗な虹だったと思わない?」

奴の最後の微笑みと同時に、俺は銃の引き金を引いた。弾丸が額に
溶け込むように吸い込まれてゆく。吹き飛んだ脳の欠片と着弾の
衝撃で雨のように崩れていく窓ガラスが夜景の中に消えていった。

何故だろう。

その瞬間の俺の脳裏には、腐ったようなあの虹が浮かんでいた。