ある種の天才は、目的を達するのに手段を選ばない。だが、その「選ばない」
の意味するところは、自由自在の発想によるという意味であり、人の道に外れる
と言う意味ではない。例えば、
 彼の所有する所を狙って、何者かが迫ったとしても、彼は地面に線を一本引き
ここを守っていれば何者も攻めては来れないと言う。周囲の者は、何を戯言をと
あざ笑うが、事実何者もその一線を越えられない。なぜなら彼は、敵の攻めて来
ない所を守ったからだ。
 また、彼が自分の欲する所に行こうとすると、易々と行って帰ってくる。周囲
の人は、運が良かっただけだと相手にしないが、事実彼は、幾度もそれをやって
のける。それは彼が、誰も守りを固めていない所へおもむいたからだ。
 何者かがやって来て、彼に理不尽な要求を突き付けても、放っておいて大丈夫
と言い、何もしない。周囲の者が、今に殺されるぞと浮き足立っても、ついぞ何
も起きない。それは彼が、自分の事をよく知っていたためだ。
 ある日彼が、自分の意見を聞いてもらいに行くと言って出かけて行く。周囲の
者は、いつも馬鹿な事を言っているから追い返されると話していると、果たせる
かな相手にされず帰ってくる。だが、しばらくすると彼の言っていた通りの事が
起きる。無私の立場から真理を説いたので、言葉がおのずと人を動かしたのだ。
 このように、天才は手段を選ばない。人にいたすもいたされない。