彼はもちろんユニークな才能をもったピアニストである。
しかし彼のスカルラッティなどを聴くと、ホロヴィッツなどと比べて
非常に凡庸である。完成度を高くしたいがために何かを、音楽としての
自然な喜びを犠牲にしているように思う。それから晩年のホロヴィッツを
さして大変無礼な発言をしたことで、彼は世間知らずの思い上がった演奏家
として、多くの音楽人にレッテルを貼られた。
実際、彼の良い演奏とは、麻薬を用いて弾かれたような、地下室の黒ミサの
響きで満ちているだけで、真の音楽神を近くに寄せてくるタイプの、幸福を
呼ぶミューズからは見放されているように私には感じる。