アバドの演奏は、音がくすんでいる。演奏が色んな意味で大雑把で、作り物な感じ
が漂う。ラトルとは、比較の対象にもならない。
ラトルの演奏の、あの独特の音楽の語り口は、稀有の説得力をもって、聞き手に
迫ってくる。あれだけリズムが変化に富み、曲の細部で部分と部分を対話させ
ながら、なおかつ全体としても抑揚に富み統合感のある演奏というのは、これ
まで存在しなかった表現形態であると思う。一つの音が紡ぎ出されて、消えてゆく
ところに次の音が生まれて重なる。音の生成と起滅と重なりあいに触れ、自分の
時間感覚と空間感覚がダイナミックに繊細に変容させられる体験は、すごいの
一言だ。