ホロヴィッツは病跡学的にみると、精神分裂病だったと思われます。
分裂病でも、慢性的に症状が持続するタイプではなく、良くなったり悪くなったりを
繰り返す、おそらく、緊張型と呼ばれるタイプと思われます。そのため、何度かの
長期に渡る演奏活動の中断期があったのでしょう。83年の初来日時はヘロヘロでしたが、
抗精神病薬の量が多すぎた、と言うか、かなりの量の薬剤を用いないと症状が抑えられ
なかったものと思われます。
ということで、彼は何度となく本物の狂気に囚われた経験があるため、シューマン、
スクリャービンなど、やはり分裂病圏の作曲家に強い親和性があります。
とりわけ、クライスレリアーナは、シューマン自身が体験した狂気へのプロセスを
克明に描いた作品だけに、ホロヴィッツの演奏には、体験者でなければ感じようの
ないリアリティがあります。
スクリャービンは、パラノイア、もしくは妄想型の分裂病で、ホロヴィッツとは
タイプが異なりますが、体系化された誇大妄想の世界を、何の躊躇いもなく描き
きるには、本物の狂気を共有する必要があります。スクリャービンの演奏で完全
にいっちゃってるのは、ホロヴィッツだけですね(後は、オグドンかな)。
ホロヴィッツは天才でしたから、自らの狂気を芸術表現として昇華する事ができ
ました。彼の演奏にみられる、他のピアニストとは次元を異にする、異様な
雰囲気と魅力は、そこにあるのだと思います。