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くめども尽きぬ「音楽の泉」 クラシック研究にささぐ情熱 皆川達夫さん
2016年5月31日 朝刊

中世・ルネサンス期の西洋音楽史を専門とする音楽学者の皆川達夫さん。
89歳の今も矍鑠(かくしゃく)として、クラシック音楽の研究、解説に情熱を燃やす。
NHKのラジオ番組で声を耳にしたことがある人も少なくないだろう。
研究と解説にささげた音楽人生の足跡を“聴いた”。 (安田信博)

毎週日曜の午前八時五分、NHKのラジオ第1放送から
シューベルトのピアノ組曲「楽興の時」の第三番が流れる。
一九四九年から変わらないクラシック番組「音楽の泉」の始まりだ。
皆川さんは、堀内敬三さん、村田武雄さんに続く三代目として八八年から曲目解説を担当している。
張りのある声、かんで含めるような語り口。曲への理解が一気に深まる構成ともなっている。

「普通の方々が、朝食をとりながら聴いて『クラシックもいいな』と思っていただけるような番組にしたい。
そんな思いでマイクに向かっています」
プログラムを組み、演奏時間を入念にチェックして解説の時間を計算し、原稿を用意する。
「かなり手間がかかり、苦労の連続です」と明かす。
苦労知らずの三代目が店をつぶしてしまう“売り家と唐様で書く三代目”の川柳を持ちだし
「空き家にならないようにしないと(笑)。前任者が三十年続けられたので、
私もそれを目標に四代目にバトンタッチしたい」。

水戸藩士の末裔(まつえい)の厳格な家庭で育った皆川さんは、
幼少から謡曲や仕舞に親しみ、十代で能楽の観世銕之丞(てつのじょう)家から
謡の等級で上から二番目の「九番習」の免状も授与されている。
一方、ベートーベンやバッハなど西洋音楽への関心も次第に深め、大きな心の壁に突き当たる。
「西洋音楽は能楽の謡曲や囃子(はやし)とはまったく相いれない異質のものに聞こえる。
どちらが音楽の本質的なあり方なのか」
思い悩むうちに古レコード店でSPレコードを見つけた。
「グレゴリオ聖歌(中世キリスト教聖歌)」と「ルネサンス期の宗教音楽」。
日本の声明(しょうみょう)や謡曲に近い音色を感じ「身震いするほど感動した」という。