ベートーヴェンの音楽は抽象であって、具体的な音を書き示したものではない。
どのピアノで何デシベルでこの音を0.1秒続けなさい、
ということではない。ここに大きな勘違いがある。

ベートーヴェンの音楽、すなわち本当の感情はデジタルでは表現できないのである。
音声ファイルのビット数が上がれば正確になる、ということとは全く違う。

ベートーヴェンの音楽はピアノで演奏されるが、
これは、ピアノでしか演奏できないからである。
ピアノは、具体性を与えることなく、抽象のまま音楽を捻じ曲げずに伝える
ことができる唯一の楽器なのである。

人間の声でも音楽は奏でることができるが、具体性、精神性を帯びてしまう。
すなわち歌謡性。バイオリンも音色という歌謡性を帯びる。

バックハウスの音楽は、これ以上なく歌謡性が消されている。
アラウ、ホロビッツなどの陣営は、歌が入ってしまっている。

ベートーヴェンの音楽は、ショパンと違って、
楽譜通りに弾いただけでは、1割も伝わらない。
演奏者の妥協なき厳しい姿勢でしか、浮き上がってこないのである。