なるほど。われわれはヴァイオリンやチェロを人間臭く親しみ深い楽器のようにも感じたがるけれど、そ
こにはたしかにどこか多少の無理がある。私がヴァイオリンを習いはじめた幼児のころの色褪せた記憶を掘
り起こしてみても、やはりその楽器は、弓の扱いが煩わしく、肩と顎で楽器をはさみこむさいの姿勢の作り
方・力の入れ方も不自然きわまりなく、楽器の音量は楽器本体とは目と鼻の先にくる左耳にきつすぎ、おま
けに弦は硬すぎて押さえる指先がとても痛くていやだった。それは非人間的といっては大げさすぎるけれど、
とにかく人体に必ずしも楽にフィットしてこない楽器のように思われた。そんな調子だから、何年やっても
上達しなかったのだなあ。

 〔『音盤博物誌』37ページより引用。『レコード芸術』2004年8月号掲載分。〕