ウィーン・フィルのソロ・ヴィオラ奏者であるルドルフ・シュトレンクは、かつてチューリッヒに
いた時に聞いた話として、次のようなクレンペラーのエピソードを語った。
 オットー・クレンペラーが友人の小説家、ペーター・デ・メンデルスゾーンと一緒に、
チューリッヒのリマットケイ通りにあるレコード屋に入って、モーツァルトのハ長調の交響曲を
クレンペラーの指揮したレコードで聞きたい、と言った。それがクレンペラー本人だとは知らない
店主は、「うちには『ジュピター』はフルトヴェングラー、トスカニーニとブルーノ・ワルターの
レコードだけですよ。クレンペラーのはありません」と答えた。するとクレンペラーは怒って、
「そんなことをこの私に言うのか!わしはクレンペラーだよ」
 これを聞いて嘘だと思った店主はからかい半分で、「あなたがあのクレンペラー先生なら、
そのお連れの方はきっと、リヒャルト・ワーグナーでしょう」と言ったとたん、クレンペラーが
怒鳴った。
「違うっ!この頓馬(とんま)!こいつはメンデルスゾーンじゃ!」