(つづき)

人付き合いがいいとは「まず言えません。」「退屈に感じるからです。」と彼女は認めた。 30年以上にわたる
私生活上のパートナーはブリュッセルを拠点とする英国人外交官、ロバート・クーパーである。内田によれば、
彼は「ごくたまに」演奏会に顔を出し、「音楽に全く無知な男だと人は誤解しているようですが、実はモーツァルト
のKナンバーの早口を得意としている」らしい。Kナンバーとは19世紀の音楽学者、ルードヴィッヒ・フォン・
ケッヘルによるモーツァルト作品を時系列に配列する番号である。

10代にヨーロッパのドイツ語圏で生活したことで彼女の中で何か世界観が変わったはずだ。それに関して内田は、
ロシア生まれの英国人哲学者アイザイア・バーリンの言葉を引用した。「私の記憶によれば彼はこう言っています、
「 自分の中に3つの文化が存在する。私にはロシア人の情熱がある。また英国への愛情がある。知的に寛容な国
だからだ。そして私はユダヤ人である。」私ならこう言えます、「日本で生まれ、おそらく私の中に自分でも
気づかない日本語の何かがわずかに残っているでしょう。それに両親の言葉である日本語を失うまいと、かつて
意識的な決断をしましたから。一方、音楽的な成長を遂げたのはドイツ語を話していた時期です。それは自分にとって
真の音楽教育でした。ですが私が愛した人、教師たちに勝る影響を及ぼした人は第3の言語を通してもたらされました。つまり英語を通してです。」」

影響力を受けた人物とは?指揮者のフルトヴェングラー、チェリストのパブロ・カザルス、ピアニストのエドヴィン・
フィッシャー、その他、ユダヤ系ドイツ人音楽家たちの系列、つまり「音楽に深く人生をゆだね、驚くべき真摯さで
取り組んだ人物」を彼女は挙げる。その中に英国人はいないと指摘すると、「英国は私が彼らを発見した場所なのです。
私のクリアな思考は英語を通してもたらされました。もちろんまだ十分クリアに思考できていませんが、そうあろうと
常に努力しています。私自身、英国文化の寛容さに深く心が触れたのだと感じます。ロンドンは真の世界都市です。
そこで人は自分らしくいられるのです。」

(暇なときつづく)