実際の使用楽譜の運用面での難しい問題はさておき、本題の発売されたCD上
の行き違いについて。
これは全くの推測による私見ですが、当然のことながら録音担当を含めて
現場の専門家集団の間では、改訂版使用というのは当然のこととして
共有の認識であったと推測されます。それが捻じ曲げられたのは、営業段階
でのことだったのではないでしょうか。そして営業の方からブックレットの
筆者へ注文が行った時にはそのいきさつが全く説明されなかったのでしょう。
(事情を知らされていたのなら、その意を踏まえて書き方を変えただろうから)

ではなぜ、営業サイドでそのような決定が必要だったのか?これは日本の
ブルックナー受容についての一種の屈折した事情と認識が絡んでいて、
たいへん興味深い現象だと思えるのである。
わが国でブルックナーが認知され頻繁に演奏されるようになってから、常々
喧伝され議論されてきたのが原典版至上主義であった。いわゆる改訂版を
見たこともないような評論家達も、こぞって改訂版演奏など過去の遺物である
と書きたてていたのだから、ファンの間ではそれが金科玉条となっていた。
そこで、営業サイドがこのCDの評判や売れ行きを心配するのは当然のこと
だろう。半可通の評論家やファンたちに押しつぶされるのはぜひとも避けたい
という考えは、察するに余りあると思う。