「最近、在京のメジャー・オーケストラと、某女流人気指揮者とのリハーサルに立会う機会があった。曲間の中休みに、背筋が凍りつくような罵声が、或る管楽器奏者から指揮者に向かって飛んだ。
『そんな棒じゃ、俺たちの『出』がわからないじゃないか。キチンと振ってくれよ』。次いで同じ仲間のいちゃもん。『その足の格好、何とかならんのかな。目障りだし、音楽には何の関係もないだろ』。

 (中略)

「楽団の親しい奏者に本番終了後、『あれは指揮者が美女故のイジメか』と問うたところ、『否、要するに指揮法が拙劣なんだ』という答えが直ちに返ってきた。『キチンとした拍子も振れない。指示も不明確。格好だけつけても、意味が解らなかったんだ』と彼は言う」

〜中野雄著、「指揮者の役割」より抜粋