未踏に踏み込む特異な響き

 最近のオーケストラは、世界中どこでも、常任指揮者が数年で替わる
傾向にある。しかし、信頼の積み重ねがなければできないこともある。
大植英次が指揮する大阪フィルハーモニー交響楽団第四百二十五回
定期演奏会におけるマーラー「交響曲第五番」は、誰にも妥協せず、
音楽監督がアイデアを出し切る画期的な演奏だった(19日、大阪のザ・
シンフォニーホール)。
 大植と大阪フィルは、すっきりした合奏能力で評価を高めてきたが、
今回は様子が違う。第一楽章は、勇ましいトランペットが先へ進もうと
するのに、泣き叫ぶ弦楽器がすがりついて停滞する。第二楽章では、
いったいどうやったのか、木管楽器の不気味な動きと、鋭い金管楽器が
分離して、空間が真っ二つに割れた効果を生み出す。そして第三楽章
では、終始、複数のダンスがバラバラの状態で同時進行する。第四
楽章に一瞬現れる澄んだ響きは、こうした世紀末風の廃墟の中だから
こそ、特異な輝きを放つ。
 狙った通り音をずらすには、ぴったり合わせる以上の技術が要る。
しかも、異様な響きで聴衆を納得させるのは難しい。この曲では
そうせざるを得ないし、今ならできると信じたのだろう。指揮者の
激烈な表現意欲と、それを受け入れたオーケストラの勇気を称え
たい。大植英次は未踏の領域に踏み込んだ。
(以下、モツピアコンについての文章は略。 引用者)

(音楽評論家 白石 知雄)

日本經濟新聞大阪本社版 2009年2月26日夕刊 第4版 22(夕刊文化)面