ポリーニのことは昔の彼も今の彼もとても高く評価しているけれど、それでも、
彼がバッハを素晴らしく弾くというのをどうしても想像できない。

ポリーニは、何十年に一度しか現れないピアニストの最優等生なんだと思う。
ただ指が速く回るとかいうことだけではなくて、作曲家が自らのピアノ作品を
弾く人に課したあらゆる要求に誰よりも上手に応えることができる。
だから、ショパンやドビュッシーのエチュードなどを弾かせれば群を抜く。
さらには、現代ピアノの性能をフルに活かして、それを鳴らし切るという
ことについても右に出るものがいない。

しかし、そういう人がバッハの平均律の楽譜を前にしたときどうなるか?
バッハは何も要求していないように見える。どうぞご自由にお弾き下さいと。
そうなると優等生は困る。
平均律は現代ピアノの性能を活かしきるような作品でもない。

どう考えてもポリーニの美点が活かしにくい。シューマンなどでは致命的な欠点に
ならない、やや急かされるようなテンポの動きが、平均律の均衡を傷つける。
音のきれいさだけで勝負したバッハというのがどんなものになるのか聴いて
みたい気がしないわけではないけれど。

誰かが書いていたけど、バッハの中では、ゴールドベルク変奏曲なんかは合う
のかもしれないね。