今から28年前、ダン・タイソンがショパンコンクール優勝した時。
当時厨房だった俺はFMラジオからの彼の演奏をカセットテープに録音しようとしていた。
家が貧乏でラジカセがなく、ラジオのスピーカーから出てくる音をカセットテープレコーダーに拾わせるという作業を
雑音が入らない様部屋を閉め切って行っていた。
蛍光灯がジジジとうるさいので電気を消して息を殺して録音に臨んでいると、ポロネーズ第1番嬰ハ短調が始まった。

その途中の出来事だった。

中間部の甘いメロディーが流れる中、突然、ラジオから野太い男の声で「うぉぅぉうぉぉ」の様なかなり大きなうめき声が聞こえた。
安物のラジオのスピーカーが割れんばかりの声を大きな声だった。
厨房の俺は心臓が止まるくらいにびびったのはもちろんだが、なぜかその場で凍り付き、じっと息を殺してその声を聞いていた。
うめき声は1回だけだった。
その後、英雄ポロネーズが始まったがそのときは何もなしだった。

しばらくはそのテープを聴く気になれなかったがが、数日して恐る恐るテープを再生してみたが、
件の場所はおろかどこにもそんな音は録音されていなかった。

あんな体験はあれから一回もないけど、今でもあれは何だったんだろうと思う。