遠山一行

モナコを聴いたことは、私にはひとつの事件だったといっていい。その事件のなかで、音楽に対する私
の考えは確かに変わったのである。演奏家によってこういう経験をするのは、指揮者のフルトヴェング
ラーとピアニストのコルトオの場合だけである。

フルトヴェングラーとコルトオは、ヨーロッパ留学のはじめ頃にパリで聴いたが、モナコは、その留学
から日本に帰った直後である。確かNHKの招聘による二度目のイタリア・オペラの公演の時だったが、
モナコはヴェルデイの「オテロ」でオテロの役を歌った。第一幕ではじめて彼が登場し、その第一声が
場内に響きわたった時に、私は文字通り驚嘆し、そして━━正直にいわせていただければ━━何か大切
なことが一挙に明らかになったような気がしたのである。