この曲は1971年にはできていて、その年の6月にオールドバラ音楽祭で初演しようとしていたのだが、
当時ロストロがソ連で軟禁状態になっていて国外に出られず、初演が74年までずれこんだらしい。
その初演もたまたま海外渡航が許可された際にオールドバラで行われたそうだ。

無伴奏チェロ組曲第3番(Suite No.3)Op.87[vc][9曲]
(1972/初演1974.12.21 ロストロ スネイプ・モールティングス オールドバラ)

1.序奏(Introduzione) 2. 行進曲(Marcia) 3.歌(Canto) 4.牧歌(Barcarola) 5.対話(Dialogo) 6.フーガ(Fuga)
7.レチタティーヴォ(Recitativo) 8.無窮動(Moto perpetuo) 9.パッサカリア(Passacaglia)

この作品ではチャイコフスキー編曲によるロシア民謡の旋律が3曲と、
コンダク (Kontakion、ギリシャ正教の儀式で唱える短い聖歌)が引用されており、
それらは主に「行進曲」「歌」「牧歌」で聴こえてくるが、曲全体にも散りばめられているらしい。
最後のパッサカリアまで素材がそのままの形で現れることはないというのが、いかにも鰤だ!
鰤は1971年にできた曲を持って、ソ連にロストロを訪ね、さらにショスタコにも聴かせたらしいが、
そこで引用されている曲の別の版を知っているとショスタコが指摘したことから、改訂したそうだ。
DSCHが聴こえる1曲めから極めて内省的な表情を見せるが、
実際にシリーズ3曲の中ではこれが最も個人的な思いを込めた作品じゃないだろうか。
本来はあと3曲書かれるはずだったこのシリーズだが、
これを聴いてしまうと何かこれがもう最後になると予感していたかのようだ。
ちなみにロストロは鰤の死後、あまりに悲しい気持ちになるので、
もうこの曲を演奏する気になれない、と語ったらしい。
それもこの曲だけロストロの録音がない理由のひとつなのかもしらん...