もともと僕は自分を演奏家だと思っていますから、
コーラス、オーケストラの別なく、指揮をしたい欲求が強かったわけです。
いよいよ機が熟したということですね。

とはいっても、いわゆるプロの指揮者になりたいとは思いません。
芸術とは本来、やりたいときにやりたいものをやる自己表現ですから、
仕事にはしたくない。生活の手段にはしたくない。
そして舞台に立つからには、技術面は別にしても、
世界的にみて第一級の表現をしたいのです。
目標はいつもフルトヴェングラーやクナッパーツブッシュや
ワルターにあるのです。

だから大変なプレッシャーだし、モーツァルトの「第40番」など、
ワルターが最高の演奏をしているので、なかなか採り上げられない。
いきおい、レパートリーもごく少なくなってしまいます。

宇野功芳「名演奏のクラシック」(講談社)p.118