ピアニストの青柳いずみこによる真面目なフジ子評論。
フジ子がただヘタなだけのピアニストだと思っている人は
ぜひ目を通してほしい。

http://ondine-i.net/column/column148.html
評論「進化するフジ子ヘミング」/「すばる」  2006年8月号

二〇〇三年九月、ベルリンで録音したアルバム。冒頭にはいっているリスト
『コンソレーション』でまずびっくりした。語りかけてくるような左手のアルペジ
オと、その上にぱっと花開いたようなふくよかな音。メロディが長くのばされて
いる間に、伴奏の和声が刻々と変化する。すると、上にのびている音まで変
化するように聞こえる。ものすごくきれいに倍音が出ているのだろう。

ある意味でいちばんおもしろかったのが、思いっきりテンポをゆらしたドビュッシ
ー『喜びの島』。ふしめふしめで、おっ、こうくるのかと新鮮な驚きがある。フジ
子にあっては、リズムもメロディックに処理するということがよくわかる演奏だ。
左手のアルペジオがぶるんとはずむところ、リズムのうねりに従ってトリルまで
のびちぢみする。ドビュッシーが響きの効果をねらって書いた部分、さざ波がち
ゃぷちゃぷ音を立てるところまでテンポをゆらすので、波乙女たちが豊かな髪を
なびかせて船乗りを誘惑しているように聞こえる。その波乙女たちが溺死者を
ゲットして激しく踊るシーンはどうやって弾いているのだろう? 普通は、バス
をボンと入れて上の和音にとびつくのだが、フジ子の録音では、まず上の和音
がきこえ、それからバスがどろーんと響く。下から上ではなく、上から下にとんで
いるのだろうか? 刺激的なクライマックスだった。