彼がチャイコフスキーの悲愴が聴きたいというので、妹はウラディーミル・アシュケナージのレコードをかけた。
アシュケナージ!と僕は思った。やれやれ、どうしてそんなモグラの糞みたいなものがうちにあるんだ?
「お兄さんはどういう指揮者が好きなんですか?」と渡辺昇が訊いた。
「こういうの大好きだよ」と僕はやけで言った。「他にはクラウディオ・アバドとかワレリー・ゲルギエフとかさ」
「どれも聴いたことがないな」と彼は言った。「やはりこういう感じの音楽なんですか?」
「だいたい似てるね」と僕は言った。