象の様な演奏家だ。
マタチッチも象であったが、マタチッチはチャーミングな「象の踊り」であったが
リヒテルは「象の足踏み」といった風情でぼくはまったく感心できない。
リヒテルのベートーヴェンは瑞々しさは皆無、神経の行き渡っていない演奏で採りたくない。

熱情の名演といえばバックハウス、実演ではもはや伝説となったハイドシェックの宇和島ライブを採りたい。
前者はやや硬質なベートーヴェンだが、巨匠の至芸によって作曲者の心情が痛いほど伝わってくる。
後者はテイチクからライブ盤が出ている。実演の凄みはマイクに捉えきれてはいないが、それでも同曲のベストとして挙げたい。
これほど愉悦に満ちた「熱情」をぼくは聴いたことがない。
魂を揺さぶるフォルテッシモ、ハイリゲンシュタットの息吹を感じさせるピアニッシモは
本物の芸術家であるエリックにのみ許されたピアノなのだ。

これらの演奏の前ではリヒテルなど霞んで聴こえる。
生前あれほど彼の事を褒めていた人たちはどこにいったのだろうか。
(ポリーニなど亡くなったらすぐに忘れられるのではないだろうか)