羅針盤を失い、わずかな風や波にも怯える、眠れぬ夜。
いったいわれわれはどこを航行しているのだろう、と自問自答するばかり。
しかし、そのような不安な航海であっても、
バックハウスのベートーヴェンは、われらの魂の羅針盤となる。
帆が夜風にはためく音がしだいに水平線の彼方へ消えて行く。
今われらの心に響くのは、バックハウスの指先から生まれる珠玉の音たち。
まぶたを閉じて、その音がこだまするのに耳を傾けていれば、
羅針盤がなくとも、明くる朝から、再びわれらの生を堂々と歩む
エネルギーが、ひたひたと心の奥底に湧いてくるのである・・・