ロヴロ・フォン・マタチッチがその「エレクトラ」を指揮した音が遺っていた。マタチッチ
がオペラハウスでも活躍したことはよく知られているが、実際に聴ける録音はわずかだった。
幸いなことに、彼の「エレクトラ」は、指揮者の個性が非常に生きた、好ましい演奏である。
マタチッチの音楽のざっくりした感じが、古代ギリシアの残忍とよく似合う。「メンデルス
ゾーンのように」という作曲者の言葉に従ったのか、意外にもこの作品を血なまぐさく指揮
した者は多くない。私は劇場でこの作品を見るたびに、食い足りない思いをしてきた。
もっと暴力的で、野蛮で、復讐の妄執に憑かれた主人公の狂気を腹の底までしみこませるよう
な演奏が可能なのではないかと考えて。とはいえ、「エレクトラ」に限らず、得体の知れない
力で私たちを征服してしまうような音楽は現在確かに皆無に近いのだが。それゆえ、
マタチッチを聴いて大いに溜飲を下げた。オーケストラがうめき、うなり、叫び、イライラ
し、ギラつき、邪念をにじみ出させる。楽器のひとつひとつの役割が鮮明だ。とりつくろった
お行儀のよさなどありはしない。主人公は、復讐で頭がいっぱいで、周囲から異常者扱い
されている。その憑かれた人間の暗い情熱が鮮やかに伝わってくる。ケダモノじみた音楽に
乗って、エレクトラの憎っくき敵、母親が登場する。やはりこうでなくてはという、美しさの
かけらもないおぞましい音楽だ。