最初の「フィガロ」は忘れ物をしたかのように遅い。そしてもちろん遅いだけでなく録音史上絶対になかったようなスピード・ギア・チェンジを随所で見せる。まったく期待通りに。
 そしてモーツァルトの40番。これも冒頭からガツンとやられる。なんなんだ、そのヴァイオリンのポルタメントは!なんだか恥ずかしくて内股になってしまう。アリゴーニ以上の究極ロマン。
 で、「運命」。これまた戦前に遡ったかのような大時代的演奏。もう、ひとつひとつ書いていられない。さまざまな驚きと笑いと涙を誘いながら、ついに驚天動地のラストへ。
しかしさすがにあの’98年のアンサンブル・サクラとの発狂地獄の再現はないだろうと思ったら、・・・やっちゃいました。最後の最後まで大どんでん返しにつぐ大どんでん返し。終わったらギャー!やりやがった!と錯乱状態。
 そうなんです。これはすでにクラシック音楽を享受するとかいう次元ではないんです。これはきっと何かの夢なんでしょう。そう思って聴かないとこの危険物は大爆発を起こします。くれぐれもご注意くださいませ。

 オケは天下の大フィル。もちろん練習時間の短さゆえ意思の疎通が図れていないところはある。しかしさすがにこれまでのオケのようなことはない。演奏技術は天下一品。

 ・・・でもこのアルバム、次回のレコ芸の批評で指揮者自身はどう評論するんだろう。こうなったらやぶれかぶれ、ぜひ「特選」つけてほしい。