会話はブルックナー交響曲ベストナインが主でほかにもあえかな仕掛けでいっぱいだ。た
とえば、右折するときにはウインカーを出すが、彼はためらいもなくワイパーを出してし
まうのだ。なんという楽しさに満ちた心配りだろうか。彼は車の全てを知り尽くしている
からこんな芸当ができるのだ。停車するときは、大事故をおそれて減速してしまうものだ
が彼はそんなことおかまいなしで、緊急停止する。決まり事にとらわれる人達は顔をしか
めるだろうが、ぼくに言わせれば爆発もしない車に乗って何が楽しいのか、とぼくは言い
たい。そしていよいよ料金の支払いであるが、演奏中は一切そんなそぶりを見せず、突然
のぼったくりである。その高い料金に、びっくりの極みであるが、これこそがタクシーの
言いたかったことであり、まさにタクシーが乗りうつったかの、もうタクシーそのものの
演奏である。通りいっぺんの車では、最初はピアニッシモでのちにフォルテと言った味の
薄い料金で、これを嫌がるひともいるが、ぼくに言わせれば一言で終わりである。そんな
もんに乗るほうが悪い。文句あっか!一言と言いながら二言なのはどうかと、あなたはい
うだろうが、そんな文句をぼくはとらない。