バッハは先人たちの形式・手法を自らのものとして体系化することで、
広大な音楽宇宙を築くことに成功した。
ショパンはほとんど独創的な手法で広く人々から容易に受け入れられる
開かれたスタイルを築くことに成功した。

バッハは後世の作曲家に多大な影響を与えたが、それはバッハ以前の音楽手法が
ある意味ことごとくバッハによって摂りこまれている結果でもあろう。
ショパンの後の作曲家への影響力が意外なほど少ないのは、それだけそのスタイルが
なじみやすい外面とは裏腹に極めて独創的である証でもあろう。

クラシック音楽を志そうとするほとんど全ての演奏家にとってバッハの音楽は
好む好まざるにかかわらず基礎として身につけてざるを得ないものであるが、
それはクラシックという範疇を超えた次元においても同様であり、
音楽を愛する実に様々な人々からバッハは音楽の父として尊敬され愛されている。
ピアノという楽器を深く愛するほとんど全ての人にとってショパンの音楽は
避けようとしても惹かれざるを得ないほど麻薬的な魅力を持つバイブルであるが、
ひとたびピアノの世界から外へと目を向けた人々にとってはショパンは
多くの素晴らしい作曲家の中の一人として愛されている。

ショパンなどバッハの足元にも及ばぬという人の多くは、
ショパンの音楽を本当に真剣に聴いたことのないのであろう。
バッハよりも何よりも断然ショパンが最高という人は、
ピアノの世界に浸ることに満足して外の世界を見下しているだけであろう。