俺の出身高校(都内某男子校)は当時、音楽教師が二人居て、それぞれ「実技」と
「鑑賞」を担当していた。生徒はどちらかを選択すれば良く、ほとんどの生徒は
3年間を通じてどちらか一方を続けて選択した。

実技担当の教師は、音大声楽科出の、いわば普通の音楽教師だったが、鑑賞担当の
ほうが、まぁ名物教師と言える先生で、慶応の経済だか文学部だかを出た筋金入りの
クラシックおたくで、趣味が昂じてそのまま母校の音楽教師になってしまったような
人物だった。自費で買い集めたLP(CD以前の時代でした)が音楽室の脇にある
レコード書庫に、少なくとも数千枚は保管されていた。音楽室には、かなり立派な
スピーカーとオーディオ装置一式が設置してあった。

授業は、高1でバロックから始まり、高3で20世紀前半の音楽に至るまで、3年間
かけてクラシック史上の主要な作曲家の作品を時代を追って系統的に聴いて行くと
いうもの。毎回、実際の鑑賞の前に、彼がいかにもクラオタっぽい蘊蓄を20分ほど
たれる。メジャーな作品については、スコアまで買わされて、スコアを見ながら
分析的に聴くのが嫌でも身に付いた。中間・期末テストも、クラオタっぽい知識を
問われる問題ばかりで、高校の音楽の授業としてはかなり特異なものだったと思う。

しかしそれだけに(そして強制的に楽器や歌をやらされなかっただけに)、彼の授業
は結構ウケが良かった。3年間「鑑賞」を取っていた同級生の多くは、卒業までには
相当なクラシック音楽ファンになっていたと思う。音楽部員(室内楽・吹奏楽)では
なくとも、自分で楽器を習い始める奴も多かった。

だから俺の出身高校では、クラシックファンだということは極く普通な事だったし、
クラシックの話をしても、白い目で見られるなどと言うことは全くなかった。