目撃といえば、私はムヒテルの日本公演でシワノバスキの超弩級第二ソナタを演奏するのを観たこ
とがあります。シワノバスキが「こんなムズい曲、一体誰が演奏できるのか」と自分で作っておき
ながら述懐していたことで有名なソナタですが、ムヒテルは例によって眼光スルドイ、がどことな
く後ろめたさを感じているような陰がある譜メクリストと共にステージに現れました。ものすごい
集中力で全ての音をもらさず絶妙のバランスで弾き続け、聴衆全員が身体を固くして引込まれてお
り、いよいよクライマックス、最後の巨大なフーガに突入して、そりゃもうアソコの毛がよだつ思
いで歓喜の瞬間を待っておりました。会場全体が水をうったような静けさと緊張感に支配されつつ
も夫々はもうグチョグチョ、ビンビン状態でした。もうこれ以上はないという歓喜の音の洪水が頂
点に達し、最後のページの例のあそこに至ったわけです。もはや千手観音や聖徳太子でも手いっぱ
いという状態にもかかわらず、更にあの強烈なバスをたたき込む瞬間です。おやっと思ったのは私
だけだったはずはありません。あの眼スル陰アリ譜メクリストの右手が・・バスをたたっ込んでい
るではありませんか・・・。ズルですよ、ズル。・・・・しかしまあ、ムヒテルにしてみれば、音
楽に対する誠意が必然的にそうさせたと言うのかも知れません。すごい演奏でしたので最後のコー
ドを弾き切った途端にものすごいオベーションの嵐。譜メクリストはいつものクールな面持ちで何
事も無かったように譜面を片付け袖に去っていきました。私はあの夜のことは一生忘れません。