本人は音大進学に向けてやる気満々だった。
親は、この先生に預けてさえいれば、そのうち音大に進学させてくれると思っていて、実際、門下に入る時に音大進学させる旨を語ったが、それ以降は特に何のアクションも起こさなかった。
高3の時に、先生が、ところであなたは音大受験を考えていたりするの?ときいてきた。
わたしは、そのつもりでレッスンに通ってきたし、親もそう思っていて、先生からの何らかの打診を待っていると答えた。
先生は、え?今からじゃ無理よ と言った。
親は先生に約束が違うと訴えたが、先生は、そんな願いはきいていないし、それに、その気があるならもっと積極的に関わってくれないとね。今さらそんなこと言われても困ると言った。
親は騙されたと言った。
わたしは、自分の人生の指針を人任せにしていたことを激しく後悔した。その日から、ピアノに鍵をかけて練習もせず、レッスンに通うのもやめた。ピアノとは関係のない大学を受験するべく猛勉強した。

あれから20年。
実家のピアノは鍵がかかったままで誰に弾かれることもなく、物置きにある。
結婚後ふたりの子供に恵まれたが、その子らには、ピアノのピの字も口に出したことがないし、習わせようと思ったこともない。
彼らは、母親の実家の物置きにピアノがあることすら知らない。

わたしは、いまだに、発表会や受験でピアノを弾かなければならないのに、何の曲も用意してなくて、親と先生に叱られパニックになるという悪夢を見る。