プレトニョフのひくピアノの音に耳をすませば、真に美しい音に何が語れるかがわかる。 
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黒田恭一 〔音楽評論家〕

 ほんとうに美しいものを、誰もが美しいと感じるわけではない。
そのために、 この世の中は美しくないもので満ちあふれる。感受性にめぐまれている人だけ が、美しい音に静かに耳をすませて、美しい音だけに語れる真実を感じとって、 感動し、涙する。
 しかし、音楽に耳を傾けるすべての人が美しい音によって語ら れる、ことばを超えたメッセージを感じとれるとはかぎらない。 同じことが、ききてのみならず、演奏家についてもいえる。
指がよく動いて、 巧みにピアノを弾けるピアニストが、たとえ熱演を印象づけて、聴衆の喝采をあ びようと、美しい音で真実を語れているとは限らない。
美しい音はすべての演奏 家にとっての最大の美徳にもかかわらず、この美徳は、困ったことに、美徳とし て気づかれないまま終わることも少なくない。