「あれ、T君じゃない?」

声をかけられ振り向くと、大学時代のオケで、コンチェルトの代弾きをやってくれた、
当時、K音大ピアノ科の学生だった、Mさん。
ロングヘアで颯爽とした姉御肌の子で、ラフマニノフの2番を、練習で何度か弾いて
くれたんだった。
俺はFgだったけど、2楽章で、ピアノに絡む所を、万感の思いを込めて吹いたものだった。
当時は(今も‥)ウブだったから、コンサートの打ち上げの時に、思い切って隣に座って、
ちょっと喋っただけで、なんか、うれしかったなあ。
あれから3年たったけど、俺の名前、覚えててくれたんだ。

「えと、あの、Mさんでsyよgいjdん・・」

ああ、俺、何噛んでるんだよ。
大学出ても、三流企業にしか就職できず、彼女もできず、Mさんのことはしょっちゅう思い
出してたのに。

「ふふ。なんか懐かしいわね。あたしはこれからヤマハでレッスンあるんだけど、
7時で終わるから、その後食事でもしない?」

!!!ヤターッ!!!
そうなんだよ。彼女は何か、こうやって周りを引っ張ってくタイプなんだよね。

「いいですよ。どうせ暇だし」

ああ、全然気が利いたこと言えないよ。
(続く)