「ヨハネス!」
暑い夏の夜。
郊外の路地に甲高い声が漏れた。
「あの人はとてもいい方なんです、クララ」
ヨハネスは神妙な顔つきでクララを見上げた。
狭いヨハネスの居間は夏の湿度で蒸せかえり、
余計、クララが上気しているように見える。
「あなたは、たくさんの子供を育てる
強い母親です。だからといって僕のお母さんじゃありませんよ」
「ヨハネス、あの女の魔法に騙されているのよ!」
「静かにしてくださいよ、これ以上近所での
私の評判を落とさないでください」
赤みがかった顔をしたクララの呼吸が乱れているを見て、
ヨハネスは自信ありげに続けた。
「彼女は歌手としての素晴らしい才能だけではなく、
気品溢れる振る舞い、そして何よりも清楚な心、
僕という冬の大地に吹雪いた、一つのつぼみ
なのです」
このヨハネスの挑戦はクララにはあまりも重大なものだった。
「へぇー」クララは喋りの声調を変え、
挑戦的な目つきでヨハネスを見つめた。