後期ソナタといえば、ヴェデルニコフの記念碑的な録音を忘れてはならない。
政治的理由で迫害、冷遇されたため、リヒテルに並ぶ巨匠でありながら
西側に知られることはなかったが、不幸中の幸いは、
彼が主要なレパートリーを録音しており、しかもソ連録音にしては
音質の状態がよいということだ。
その中でも、ベートーヴェンの後期ソナタ集は、彼の名を永遠ならしめる
金字塔と言える。確かな技巧と堅固な設計に裏打ちされた、
深遠な嘆息、高雅な調べ、気高い詩情、底知れぬ諦念。
このような音楽が人間の手によって可能であったということこそ奇跡である。