>>709-710
「ピアノ協奏曲3番はヴォロージャ(ホロヴィッツの愛称)の演奏が抜群で、
 パガニーニの主題による狂詩曲に関してははベンノ・モイセイヴィッチの演奏だとだとラフマニノフは言っていた。」

らしい。あとラフマニノフ自身の演奏についても触れられている。

「ラフマニノフはいくつかの録音を残しているが、
 あれほど素晴らしいにも関らず残念ながらラフマニノフ本来の妙技を伝えてはいない。
 (中略)
 シューマンの「謝肉祭」をピアニストはそっけないピンポン競技のように弾く。
 あのアルトゥール・ルービンシュタインですらけばけばしく響かせるのだが、
 ラフマニノフの演奏だけは途方もないロマン派のすべてがそこに具現化されていた。
 まるで巨大なキャンバスにミステリアスな貴婦人や豪勢な紳士が見えてくるようだった。

 ショパンの幻想曲は誰もがバラバラに砕け散ったようにしか表現できない。
 それでもラフマニノフが演奏すると、あたかもミケランジェロが石隗から彫像を造り出すように完璧に表現した。

 またヴェートヴェンのクロイツェルソナタも自分が作曲したかのように完璧な演奏をした。
 だれもが何らかの理由で変奏部よりも主題を速く弾くが、
 彼は変奏部がまるでシャンペンの泡が次々と湧き出すかのごとく華やかに弾き、
 最終章も通例よりも極めて緩やかに演奏した。私はこの奇跡のような共演を今でも鮮明に覚えている。」

ナタン・ミルスタイン『ロシアから西欧へ』文芸春秋社より抜粋。