こんなのありますた。

 自ら詩に於てシェークスピヤの域に到り、樂に於てベートーフェンの域に
 到り、詩及び樂を一にして各芸術を綜合し、理想的樂劇を作らんとせり。
 時には自ら得意なるあり、自ら得意にして世間の非難を被るあり、
 或は自ら如何はしく考へて却て世間に悦ばるゝあり、
 毀誉褒貶の區々なりしが、屈せず撓まず初志を貫くに務め、
 六十四歳にしてバイロイトに略ぼ豫想通りの劇場の成るを見たり。
 三十歳より七十歳まで、「リエンチ」「飛び去る和蘭人」
 「ダンホイゼル」「ニベルンゲンの指輪」「トリスタンとイゾルデ」
 「ヌルンベルヒの樂師」「パルシファール」等の作あり。
 而して別に「將来の藝術」「樂劇と演劇」「宗教と藝術」
 「ベートーフェン」等の著書あり。是れ皆な惡戦苦闘、
 辛うじて勝利を得たりと見ゆる所なり。

  ー大正2年の雑誌よりー