宇宿允人の何がそんなにすごいのか?
 それは先ほど言ったブラームスの1番に代表される激しいアゴーギグ、
自由自在のテンポ変化、だれもやらなかったような多彩な表現、そして
燃え盛るようなパッション。今まで何度も聴いたことのある作品が宇宿の
手にかかると全く新しい作品に生まれ変わる。厳しいオーケストラへの
練習を経て生み出されれるそれらの超・個性的で新しい音楽は、これまで
なんとなく聴いてきた音楽と比べてなんと新鮮なことか!
 10年前、関係者の人に「宇宿允人」という人物についての話しを
聞いたことがある。・・・その人はこう言った。「オケに対して絶対に
妥協しない。自分が違うと思ったことは絶対に許さない。公演前はオケは
合宿状態になり、軟禁状態で練習に入る。それについていけなくてほとんどの
団員は1回でやめてしまう。だからオケの名前は同じでもメンバーは毎回
ほとんど違うんですよ。もう本当に気が狂ってるとしかいえません。」・・・
あんなに優しそうに見えたあの紳士が・・・?
 だが今回リハーサルの風景の収録されたブラームス1番のビデオを見て、本当に
そうであることを知った。普通の指揮者なら十分OK!が出そうなところを、
しつこくしつこく繰り返して、口調は優しいが厳しい叱責が飛ぶ。
現在のオーケストラとの関係ではほとんど忘れられている、畏怖されるべき存在
としての指揮者。いかにすばらしい音楽性をもっていてもそれをオーケストラに
表現させる力がないものは指揮者としての資格はない。宇宿の演奏会で聴ける
異常ともいえる感情表現や不思議な解釈は、たまたま生まれたものではなく、
極限状態になるまでオーケストラと練習を繰り返した宇宿の率直な音楽性の現れ。