そしてこんなことも
 楽員達は厳格なことで有名な巨匠との初舞台にかなり緊張していた。
 なかでも、主席トロンボーン奏者スタンレー・ブラウンの場合は極端であった。
 とにかく終楽章までウォームアップも出来ない。
 おまけに、数ヶ月前ヘルマン・シェルヘンとのリハーサルで
 「入り」を間違えたと叱責され、ひと悶着あってメンタル面も弱かった。

 結局、トロンボーンの有名なコラールは不運にも失敗に終わった。
 演奏会後、楽員仲間のみならず楽界のすずめ達も喧しく非難し、
 どこでも「あれがトスカニーニの演奏会で大失敗をしでかした男だ」と
 後ろ指をさされた。
 ブラウンはその後楽団を解雇され、祖国を追われるようにカナダに渡ったという。