【長木誠司<著> <序章> 第2段落 P7第9行】
 これを想起させるようなシーンを、我々はつい最近映画『シンドラーのリスト』のなかに見いだす
ことになる。ナチによるポーランド侵攻。親衛隊の兵士たちが、とある街のゲットーを襲う。小銃で
撃たれ、崩れ落ちる男や女、そして子供たち。銃声と悲鳴の背景に、ピアノの音楽が聞こえてくる。
どこからだろう? 彼らはアップライトピアノの置かれた、がらんとした一室に到着する。そこでは
親衛隊のひとりが陶酔した眼で可憐な作品を奏でていた。やってきたひとりが尋ねる、ドイツ語で。
「それは何だ、バッハか? それはバッハか?」「いやモーツァルトだ、モーツァルト」、ほかのひと
りが答える。演奏されていたのはほかならぬバッハの<<イギリス組曲>>イ短調の<プレリュード>だ
った。スピルバーグの皮肉が走る。