私の母親は、根っからのクラヲタ。私にも幼い頃からクラシックを聴かせ続けてきたけど、子供がそんなものを好きになるわけもない。私はクラシック
などには興味も持たなかった。そして引越しなどもあり、母が持っていた貴重なLPは、全て売却するなどされて処分されてしまった。

そして、私が18だったか19だったか…母の誕生日。たまには親孝行してやろうと、母の誕生日にプレゼントを贈る事にした。クラシックが大好きな母だし、
CDならお金もかからない。クラシックのCDを贈ろう。しかし、当時の私にクラシックの知識など、半分寝て聴いていた学校の音楽の
授業くらいしかない。どんなCDを買ったらいいのだろう。そんな私だが、母が好きで、よく話題に出す演奏家の名前を1人覚えていた。名前も独特なそのヴァイ
オリニストの名前は、母からよく話を聞かされていた事もあって、私も覚えていた。よし、それならそのヴァイオリニストのCDを贈る事にしよう。

私が選んだのは、チャイコフスキーとメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を一枚に収めたもの。いわゆる「メンチャイ」。プレゼント用なので、もちろん
私は聴いていない。喜んでくれるといいなと思いつつ、母の誕生日当日「安物だけど」と言ってそれを差し出した。

「このジャケット!LPで持ってたそのまんまや…」。母はとても喜んでくれた。すでに聞いた事のある演奏だったらしい。しばらくは、毎日我が家でその
CDがかかっていたような気がする。

月日が流れ、私が実家を離れる日。母は「これを持って行き」と、一枚のCDを私に持たせてくれた。

そのCDこそ、そう、私がかつて母に送ったあの「メンチャイ」だったのだ。

以来、私はクラシック音楽が大好きになり、誰に「深みがない」だのなんだの言われても気にしない。メンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン
協奏曲は、最強の音楽だ。無論、私が母に贈り、母が私に贈ったメンチャイは、今なお他の追随を許さぬ愛聴盤だ。

そして、母に贈ったあのCDの演奏家は、どんな現役最強演奏家も適わない、最高の音を、今なお私に聴かせてくれている。

母が愛したそのヴァイオリニスト。その名はヤッシャ・ハイフェッツ。