1955年5月28日のヴェルディ「椿姫」のLP(MRF-87)の演奏を聴いた感想です。

 自分にとってこの演奏を聞くのは初めての経験ですが、正直な話、カラス以外は
全く不満に残る演奏でした。この演奏を聴いたあとで、1935年のパニッツァの演奏
を聴くと、パニッツァを初めとして本能的に演奏しているためか、極端にいい演奏
に聞こえました(実際にいい演奏には間違いないのですが)。

 一番不満に残ったのはジュリーニです。ジュリーニは第1幕の前奏曲では、自分の
主張を通して、ゆっくり丁寧に演奏しています。しかしそれ以外は、快適なテンポ
で演奏しているものの、前奏曲での自分の主張がイマイチ通しきれていない問題が
残りました。ジュリーニは基本的には、80年代に録音したヴェルディの「ドン・カルロ」
のようなヴェルディの音楽の美しさを感じさせる演奏家だと思うし、その姿勢はこの演奏
でも同じなのですが、若さのためか、「あらゆる妥協の中で演奏していた」ためか、中途
半端になっているのが惜しいと思いました。
 歌手は、ディ・スティファノは私が挙げた1935年のジェーゲルのような歌で酔わせる
ような魅力がありません。その点はとやかく言わないのですが、ジュリーニの音の作り方が
中途半端なためか、ただ歌っているだけという印象を持ってしまいました。これが後年の
ジュリーニやカラヤンだといいサポートしてくれるのですが。
 合唱もイマイチ。1955年の演奏なのに、1935年より合唱の音が悪いのがすごく気になりま
した。
 しかしカラスはすごくいいなと思いました。なにより聴衆がカラスの歌や格好に酔って
いるのが手に取るように分かりました。ジュリーニのサポートが中途半端なので、例えば、
カラヤン指揮のヴェルディの「トロヴァトーレ」のような完成度の高い歌は聴けないのが
残念ですが、それでもトロヴァータ役は未だにカラスがベスト!と思う演奏でした。
 ちなみにバスティアニーニは彼としてはノーマルな出来かな?と思いました。