この上演に関する証言。(両方とも、音楽の友社『フルトヴェングラー 足跡ー不滅の巨匠』ベルント・W・ヴェスリンク著 香川檀訳より引用)

伝記作家ベルント・W・ヴェスリンクの証言
<神々の黄昏>の<聖なる森でのフィナーレ>の最後の響きが鳴り止んだとき、彼は楽
員たちのほうを向き、かってリヒヤルト・シュトラウスが<カプリチョ>初演の後で語
ったのと同じことをいった。「皆さん、わたしには、これ以上うまくは出来ません」。
そして、楽員たちは彼を理解して、深く感動したのであった。

フルベン夫人の証言
「……私たちはローマに一月いたわけです。オーケストラはほとんど<指環>を知りま
せん。これは確かにマイナスではありましたが、プラスの面もありました。演奏する側
が、この新しい音楽のとりこになってしまったのです。オーケストラも歌い手も当の作
品と指揮者に対する没頭ぶりは献身的の一言に尽きました。それにしても、いちばんた
いへんだったのはフルトベングラーで、彼はほとんどホテルにも帰らず、厚い総譜を拡
げ、あちらこちらと歩きまわっては、ときに必要なところをのぞき込みながら、仕事を
続けるのでした。技術的準備作業が整うと、今度は腰を下ろしてその次の総譜の研究に
没頭しました。こうして、彼の一月が過ぎました。……最後の演奏会である<神々の黄
昏>第三幕を終えてホテルの部屋に二人で帰ってきたとき、ひとしきり長い沈黙があっ
た後、フルトベングラーは物思わしげな調子で言いました。『<彼>も今日のぼくには
満足してくれたろうと思うなぁ』といいました……」(エリザベット・フルトベングラー)