「もしもし」「隆二? あたし、あっこ」
「珍しいじゃないか。今どこ?」「パリ。自宅にいるの」
「忙しそうじゃない」「うん。今はヨーロッパを回ってる。毎日たいへん」
「シベリウス&ウォルトン、聴いたよ。ジャケット、ちょっとはでじゃねえ
 か?」「フィリップスの社長が、ああいうの好きで。自分じゃないみたい」
「昨日、チョン・キョンファとハイフェッツのシベリウスと聴き比べたよ」
「ほんと、どう思った?」
「過去と現在の大家と比べちゃ、あっこが気の毒だけどさ。君の演奏は無個
 性だし、華がないと思う。精神性にも欠けている。がっかりしたよ」
「隆二。ひどい」
「その後に、庄司さんのパガニーニを聴いたよ。デビューアルバムのね」
「紗矢香?」
「彼女の演奏には華がある。君の演奏とは違う」「そんな言い方ってないよ」
「晶子。別れよう。」「隆二、お願い。あたしを捨てないで」