1999年2月1日の朝日朝刊より。武満派に転向したといわれる所以。

◆評価を変えた群抜く「強さ」――坂本龍一さん

 いま取りかかっているオペラのために、ドビュッシーやストラビ
ンスキーなど二十世紀に書かれた傑作を改めて聴いている。その中
で、武満さんの音楽は、同時代のペンデレツキやリゲティ、ベリオ
と比べても引けを取らないどころか、むしろ訴えかける力が強い。
僕の中で評価が百七十度くらい変わってしまった。自分でもびっく
りした最近の「事件」でした。
 かつて批判したのも、武満さんの作品がそれに足るクオリティー
を持っていたから。自分の前に立ちはだかる壁だった。いまぼくが
オペラに力を入れているのも、武満さんが生前オペラをやろうとし
て果たせなかったことの影響が大きい。武満さんが完成させていれ
ば、ぼくの作品とはまったく違ったものになっていたでしょうけど。
 音楽の初源的なものは、その個人の内からわき出てくる何か。そ
れを除けば表面的な技法しかない。武満さんの音楽から感じる強さ
とは何なのか、武満さんの影響を感じながら、いま考えています。
(音楽家)