今年のキーシンはひと味違う。
プログラムの構成が変だと思ったけど、聴いて納得いった。
コンセプトは「ピアノで歌う」。
彼がコンサートでやってたのは、主旋律の音色を変えて装飾的な楽句から
浮き立たせること。これはかつて晩年のホロヴィッツやソフロニツキーが
やってたことだが、キーシンも実験的に始めて、単なるヴィルトーゾから
の脱皮を試みてると見た。
実際、彼はシューベルトD.960で非常に遅いテンポを意図的にとったが、
本人の感覚的にはもっと速く行きたかったらしく、この曲の1、2楽章独特
の「空白」に戸惑っていたように聴こえた。というわけで、前半はいまいち
成功してなかったが、3楽章4楽章は軽快なテンポで弾き、彼の粒の揃った
美音とくっきりと浮き立った主旋律が生きた好演だった。
彼の「実験」はシューベルト=リスト、ペトラルカのソネットまで続き、
最後のメフィストワルツで昔のキーシンに戻る。ちなみにメフィストワルツ
は快速と剛腕を以て華麗に弾かれたが、ところどころに音の濁りが現れた。
ひょっとすると彼自身ヴィルトゥージティには飽きがきてて、華麗系の
曲は聴衆の為に弾いてるのかな、とオモタ。

アンコールは
シューベルト「即興曲Op.90-3」
シューベルト=リスト「ウイーンの夜会」
リスト「ハンガリー狂詩曲」のどれか(右手のオクターブ連続が拷問に近いやつ)
リスト「パガニーニ練習曲五番」

結局鳥肌が立つ程美しくて感動したのはアンコールの即興曲だった。

ということで、終わり。