内閣官房は大慌てだった。それも当然である。首相が拉致されたのだから。
しかし、いかなる政治的交渉も、経済的提案も蹴られた。
そこで芸術好きの主席を個性を考え、救出に向かったのが庄司紗矢香である。
政財界から内々の要請に対し、一部で首相との婚約説も流れていたこの少女は、
ひとこと「行きます。」と言った。
彼女はか細い体躯からは想像もつかないほどの勇気を出して、単身国交のない国に赴いた。
初めは怪訝そうな顔つきで聴いていた、主席をはじめとする相手方。
しかし、金主席の目から大粒の涙がこぼれるのに時間はかからなかった。
号泣する主席。そこに、緊縛され、細い体がさらに痩せ細った首相が現れた。
日本は救われたのだ。国交も結ばれ、北側も救われた。世界は救われた。
一人の演奏家が世界を救った瞬間だった。しかし、彼女は照れながら言った。
「わたしは何もしていません。すべてはミューズの神の思し召しです。」と。