鵜の目
匿名の悪意(中沢 佳子)

 腹が立っている。ある少年に向けられた匿名の悪意に。
 その少年詩人と支援者たちを取材したのは、半年ほど前。重
い脳障害を抱える十一歳の彼は、歩くことも、しゃべること
もできない。それでも、文字盤を指さして意思を伝え、詩を作
り、本を出版。各地で講演会に招かれ、多くの人の心を打っ
た。その生活が四月末に、あるテレビ番組で放映された。
 それがきっかけだった。
 「『子どもがあんな詩を作る訳ない。母親が作っている』
『変な宗教やってる』なんて中傷がネット掲示板に…」
と支援者たち。被害は、支援者の個人ホームヘージにまで及んだ。
「考えは自由。でも、こういうのは汚い」「ゆがんでいる」
 少年を信じろというのではない。表現の自由のうまみを吸っ
て、責任から逃げているのが、納得できないのだ。批判には根
拠を添えるべきだし、考えに自信があれば名前を出してただ
せばいい。彼を批判しても職や命を失う心配はない。匿名
なのは、悪意だからではないか。
 少年は今、講演活動を休止してひっそりと「悪意」に耐えて
いる。各地を回り、多くの人と”会話”するのが、数少
ない楽しみの一つだったのに。
(中日新聞岐阜県版2002.5.29)