《遺産分配書》          富永 太郎

 わが女王へ。決して穢(けが)れなかつた私の魂よりも、
更に清浄な私の両眼の真珠を。おんみの不思議な夜宴の觴(さかづき)に
投げ入れられようために。

 善意ある港の朝の微風へ。昨夜の酒に濡れた柔かい私の髪を。
── 蝋燭(らふそく)を消せば、海の旗、陸の旗。
人間は悩まないやうに造られてある。

 わが友M***へ。君がしばしば快く客となつてくれた私の Sabbat の洞穴の
記念に、一本の蜥蜴(とかげ)の脚を、すなはち蠢(うご)めく私の小指を。
── 君の安らかならんことを。今日もまた、陽は倦怠の頂点を燃やす。

 シェヘラザードへ。鳥肌よりもみじめな一夜分の私の歴史を。

 S港の足蹇(あしなへ)へ。私の両脚を。君の両腕を断つて、
肩からこれを生やしたまへ。私の血は想像し得られる限り不純だから、
もしそれが新月の夜ならば、君は壁を攀(よ)ぢて天に昇ることが出来る。