たしかにヘレは感情表現は控えめ。だからオペラには向かない。
バロックを「感情の表出」と捉えるかぎりは、ヘレは退屈。
本来なら彼は、どちらかというと中世・ルネサンス的な資質なのかも。
でも、広義の「ロマンティシズム」は中世やルネサンス音楽にもあるし、
バロックにもあるし、またそれ以降の音楽にはもちろんある。
で、ヘレはそういう広義の「ロマンティシズム」の表現は得意。

バッハ演奏について言えば……、
直截的ではなくて、じわじわ心にきいてくるような暗さ、
それも陰気さとか深刻さというよりは、美しい闇、といった暗さ。
あるいは幻想的なほの明るさ。または天国的な光などなど、
ときには「死の明るさ」を感じさせる時もあり。
それらすべて、とにかく美しい。妖しいほど美しい。

それから、これもまったくの私見なのだけど、
ヘレの録音に関していえば「マタイ」「ロ短調」のような大曲より、
カンタータみたいな小曲、または「ヨハネ第二稿」のような変わった曲のほうが
ヘレの良さがストレートにあらわれやすいように思う。
生演奏だとまた違うんだけどね・・・